【コラム】SDGsと人事・人材育成(Apple編 )-人的資本を軸にした資本の好循環サイクル

出典:Apple_SR_2022_Progress_Report.pdf

SDGs and HR/Human Resource Development Apple version
-virtuous cycle of capital based on human capital

 

最近、人事や人材育成の部分でもSDGsへの取り組みが求められるようになってきました。

SDGsというと環境問題が思い浮かぶことが多いと思います。

実際には、自然環境と人間社会の両方の持続可能性を高めるのがSDGsです。

当記事では、アップルの事例をもとに、人事・人材育成における企業のSDGsへの取り組みをご紹介します。

 

サプライヤー責任 - Apple(日本)

アップル社において徹底されているのは、サプライヤー責任に関する価値観の共有です。

はっきりと明文化されており、いつでもアクセスできる状態になっています。

2022年最新版の進捗報告書を元に、具体的に見ていきましょう。

https://www.apple.com/jp/supplier-responsibility/pdf/Apple_SR_2022_Progress_Report.pdf

 

 

 

最初に掲げられているのは、すべての人に適用される人権施策です。

消費者にも、労働者にも、ビジネスパートナーにも、サプライチェーンのすべてのレベルに関わる人の権利と安全が保障されると宣言しています。

アップルが取り扱うのは精密機械であり、消費者の期待に応えるレベルの商品を作るためには、最高レベルの基準をサプライチェーンのあらゆる場所で維持する必要があります。

自社のブランドを守るための方法でもあると言えるでしょう。

 

 

アップルのサプライチェーンには、52カ国にわたる300万人の従業員が含まれています。

国によって社会状況は異なり、人によって教育の有無に違いが出ることもあるでしょう。

その中で高いレベルの行動規範を守るために、職場環境のヒアリングや労働者の権利に関する研修を提供しています。

 

 

アップルのサプライヤー行動規範は、2005年から毎年更新され、15の言語でウェブサイトに掲載されています。

自社だけでなく、サプライヤーにも伝達されます。

サプライチェーンのどの場所においても、人々が安全に働き、尊厳と敬意を持って扱われるように専念する、というのがアップルの姿勢です。

この責任は、企業のコンプライアンスのさらに上位に位置づけられています。

行動規範に基づいて、サプライヤーがどのくらい達成できているかの査定を行っています。

また、サプライヤーに対する緻密な聞き取り調査や広範な書類のレビューを行い、どのような変化が必要か、達成するためには何が必要かの洗い出しを行っています。

 

このような活動を円滑に進め、解決策や時にはシステムレベルでの変化をつくり出すため、様々な外部団体との協業を行っています。

産業団体や市民団体、複数の利害関係者が参画する構想に基づき、多面的な視野と経験から学んでいます。

 

価値観の共有が徹底されている前提で、初めて実際の人材育成に運用されていきます。

すべての人が尊厳と敬意を払われて安全で健全な職場を持つ、というのが大原則です。

全員が尊厳をもって扱われ、自分の権利を知るべきだ、という考えに基づき、以下の項目が挙げられています。

 

差別の禁止、児童労働の防止、労働時間の管理、強制労働の防止、若い労働者の保護、ハラスメントやいじめの禁止、団結・団体行動の権利、マネジメント能力を身に着ける教育プログラム

 

このような姿勢を前面に押し出し、数値として成果をアピールすることで、より良い人材を採用しやすくなるでしょう。

また、既存の従業員にとっても、働き続ける環境が整っていることで、良い成果を出したり新しい仕組みを考えたりする原動力になります。

働く人の満足度を上げる取り組みです。

 

 

労働者の不満や労使間のコミュニケーション、サプライヤー企業の従業員からのフィードバックが多角的に活用されています。

中でもサプライヤー企業の従業員との面談は重要視されています。

現地の言葉を使用し、上司がいない状態で行うことが徹底されます。

 

 

ここまでをまとめると、アップルはサプライヤーにおける労働環境や人権状況の改善に重点を置いていると言えます。

大きな企業といわゆる「下請け」の企業の場合、どうしても片方が弱い立場になりやすい傾向にあります。

無理難題を押し付けられたり、製品が安く買いたたかれたりして消耗させられたりする危惧を持つこともあるでしょう。

そのような潜在的な問題を解決する手段として、このような施策を行っていると考えられます。

取り組みを続けていくことで、良好な取引先を増やす、既存のビジネスパートナーが生み出す利益を最大化する、といったメリットがあります。

 

また、サプライチェーンにおける強制労働や債務労働の防止にも力を入れています。

世界的な大企業の製品が強制労働で作られたものだった、というニュースは衝撃的なものです。

消費者の反感を買い、投資家たちからも冷遇されて企業の価値を下げてしまうでしょう。

そのようなリスクを避けるため、アップルは積極的に関与しています。

 

 

アップルのユニークな点は、研修システムにも表れています。

伝統的に「すべての社員がコードを書ける」というのがアップルの社是です。

社内向けの研修プログラムが存在するのはもちろんですが、同じものをサプライヤーにも開放し受講できるようにしています。

希望者にはマネジメント研修の受講を認めており、キャリアアップの支援も行っているのが特徴です。

 

アップルでは、環境問題への取り組みと人事・人材育成の取り組みを同じ枠組みで行っています。

それを端的に表しているのが、「環境問題は、人権問題です。」という力強い宣言です。

この先もトップランナーであり続けようという気概がよく表れています。