テレワーク環境でのモチベーションを上げる研修のポイント

 

企業活動を持続的に実施するため、人材育成をすることは必要不可欠な施策です。これは総論としては、皆さん賛同することですが、なぜか、近年の教育研修は、毎年減少傾向にあります。さらに、2020年に起きた新型コロナウィルスに影響でオフライン(集合)の研修が物理的な理由で実施できなくなり、場しのぎ的にオンラインで研修は実施してはいるものの、これまでオフラインでやっていた研修を、オンラインで実施をすればいいのか、という問題もでてきています。

そもそも、研修はなんのために行うのか?

それは言わずもがな、企業の稼ぐ力の強化するため人材を育成するために実施をするもの。特に、職務遂行能力を高めるための研修や、それぞれの昇進昇格のタイミングに合わせての階層別研修によって役割認識を高めるために研修実施をしてきました。このような研修は工業化社会(1970~2005年)の時代は、まだまだマネジメントについての知識の広がりが少ない中、貴重な教育研修でした。ただし、時代変化と共に日本企業の三種の神器と言われてきた①終身雇用、②年功序列、③企業内組合が崩壊している中、同様の研修内容について、疑問を持つ社員の方が増えてきているのではないでしょうか。

研修を企画する人事は、どのような視点で研修企画していくことが求められているのか。

書籍や動画サイトを見ると、研修会社のテキストよりも分かり易く説明されているコミュニケーションやマーケティングについての情報があります。少し好奇心、向学心のある方などは外部セミナーなどで学習している内容を研修で聞かされても、参加者する社員としては、「忙しいのに、かなわないな~」といったところです。

VUCAと言われるこの現代社会において、人事の方が持ってほしい視点として、「社員が、自分では勉強することがなかった教育テーマを企画研修してくれてありがとう」や、「ちょっと枠を広げて自分で勉強をしてみようとモチベーションが上がった」、と思うことができるような研修をぜひ企画してほしいと考えます。

レジュメ

  • 自分らしさの発揮と他者との協調が両立する社会、それが自律社会!
  • 社員の働く動機づけ変化に気づけていますか?
  • (まとめ)今後の研修の方向性とは

 

自分らしさの発揮と他者との協調が両立する社会、それが自律社会!

イノベーティブな製品を次々に送り出しているオムロン株式会社の創業者の立石さんは、1970年代に、現代社会を自律化社会と表現をしていました。社会のニーズを先取りした経営をするためには、未来の社会を予測する必要があるとの考えから、提唱された「SINIC理論」があります。その中で、2025年以降の自律社会では「自分らしさの発揮と他者との協調が両立する社会」であると予測されています。

出典:ar18_02.pdf (omron.com)

 

個の自律・活性化

また、持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~ 人材版伊藤レポート ~(令和2年9月)伊藤レポート20200930_1.pdf (meti.go.jp)においては、人事変革の方向性として、(これまで“)相互依存”の関係性から(これから)“個の自律・活性化”と表現しています。“相互依存”とは、企業は社員を囲い込み、個人もこれに依存する。硬直的な文化になり、イノベーションが生まれにくい状態。“個の自律・活性化”とは、互いに選び合い、共に成長する。多様な経験を取り込み、イノベーションに繋げていく状態です。

マイナビが2022年新卒採用広告特集において、「Z世代は「価値観の世代」今やりたいことを大切に」 (日本経済新聞(第二部)2022.3.1「選ばれる」から「選ぶ」就活へ)と表現するように、企業のヒューマンリソースの在り方の変化は、採用ターゲットであるZ世代の価値観変化にも大きく起因していることが分かります。

 

兼業副業 → 自立の時代に

このような社会の流れは、働き方の感度の高い会社には、兼業や副業という形で表現をし始めています。ロート製薬は創業120周年を迎えた2019年、心身の健康や幸福などを意味する「ウェルビーイング」を経営ビジョンに取り入れています。受け身にならずに、自らチャレンジするような勇気を持ってこそ、先進的なことに取り組めるはずだ。16年に副業を解禁したのも、そうした行動を妨げる余計な制限ではないかと考えたため。色々なブランドがあるが、基本的に個々の営業活動や開発などの工夫は社員に任せている。これが他社とひと味違う商品を生み出し、企業の成長につながっている。社会のニーズに応えることにもなると述べています。

「社員の副業、挑戦心に点火」 ロート製薬・山田会長: 日本経済新聞 (nikkei.com)

 

自立の時代、働く仕組みにも反映

更に、この自律社会の流れの中で、コロナ禍という外部環境要因も複雑に絡み合い、働く環境や仕組みに影響し制度変更が起きています。

これまでの日本企業の仕組みは、人に仕事を付けるメンバーシップ型の企業が多く見受けられましたが、日立製作所は仕事を人に付ける完全ジョブ型への移行を公表しました。

【日立製作所、全社員ジョブ型に 社外にも必要スキル公表】

日立製作所は7月にも、事前に職務の内容を明確にし、それに沿う人材を起用する「ジョブ型雇用」を本体の全社員に広げる。管理職だけでなく一般社員も加え、新たに国内2万人が対象となる。必要とするスキルは社外にも公開し、デジタル技術など専門性の高い人材を広く募る。年功色の強い従来制度を脱し、変化への適応力を高める動きが日本の大手企業でも加速する。”

出典:日立製作所、全社員ジョブ型に 社外にも必要スキル公表: 日本経済新聞 (nikkei.com)

 

ヤフー株式会社は、“無制限リモートワーク”で新しい働き方の推進

さらにヤフー株式会社では、時間と場所に捉われない新しい働き方へ移行を宣言しました。

ヤフー、“無制限リモートワーク”で新しい働き方へ - ニュース - ヤフー株式会社 (yahoo.co.jp)

 

まだまだ、工業化社会の名残を引きずり旧態依然とした組織体制の企業があれば、社会環境変化を敏感に読み取り、組織適応を速めている企業と、顕著に2極化してきていることが伺えます。自律社会は現実にやってきています。

 

社員の働く動機づけ変化に気づけていますか?

自律社会に向け、ジョブ型のシフトやリモートワークの導入よる働き方の変化によって、人の働く動機づけに変化はあるのでしょうか。

動機づけ理論としては、A. H. マズローの人間の基本的欲求が参考になります。動機づけ理論の出発点として①生理的欲求から始まり、②安全の欲求、③所属と愛の欲求、④承認の欲求、⑤自己実現の欲求に至ると記しています。比較的、大学などのキャリア教育においても学んでいる方も多い理論ですので、マズローの話は身近になってきていると感じます。

「承認の欲求」が働く現場でのモチベーションの源

今回は、コロナ禍においての自律社会に向けての変化の中での、動機づけについて考えていくうえで、④承認の欲求にフォーカスしていきます。「承認の欲求」とは、大きく分け2つに分類されています。第一に、「強さ、達成、適切さ、熟達と能力、世の中を真にしての自信、独立と自由などに対する願望」があります。第二に、(他者から受ける尊敬とか承認を意味する)評判とか信望、地位、名声と栄光、優越、承認、注意、重視、威信、評価などに対する願望です(A. H. マズロー著・小口忠彦訳,1987,p.70)。これまでの工業化社会での日本の働く環境を考えていくと、この第二に掲げられている他者から受ける尊敬や承認に動機づけられて働く方々、多くいらっしゃったのではと推察します。

例えば、

  • 毎日毎日忙しい中で、睡眠時間もなかなかない中で働いているが、同僚たちが困るし、同僚たちに助けになるのであれば頑張ろう
  • 自分はこの職場では新米で、経済的な成果は出せていないけど、先輩に頑張れと励まされたりすることでなんとかやっていこうと思える
  • 困っている後輩がいるとそのサポートをすることで、自分自身の存在価値を認めることができる

自身の自己実現の欲求という渇望への充足のために働いていく動機づけよりも、この「承認の欲求」が働く現場でのモチベーションの源であったように思います。

 

テレワーク環境でのモチベーション

それが、コロナ環境、働き方改革の推進によるリモートワークの促進により、在宅で一人で働く環境に変化していっています。リモートワーク環境では、ちょっとしたことで周囲の方から勇気づけられたり、褒められたり、ありがとうの一言をもらったりする機会が減少され、ジョブ型に移行する中で、非常に目的的に労働に向き合わなくてはならなくなっていきます。

これまで「他者からの承認」によって仕事に動機づけをすることができた人材には、リモートワークで黙々と仕事をする環境はなかなか厄介な環境になってきています。この「承認の欲求」が妨害されることは、劣等感、弱さ、無力感などの感情を引き起こします。これらの感情は、根底的失望か、さもなければ、神経症的傾向を引き起こすことに繋がりかねないとマズローは記しています。まん延防止等重点措置や緊急事態宣言によって影響、又は、働き方改革の一環で進むテレワーク環境において、社員の働く欲求に対して、どのように向き合うのかは大きなテーマです。

上記のような状況を予測しセルフケアやラインケアを積極的に取り入れていく企業なのか、ついてこれない社員に対しては割り切りがうかがえる企業なのか、ここでも大きな差が生まれてくると考えます。

これまで読んでいただいたみなさんの企業は、場当たり的な対応ではない人事・教育施策を繰り出す企業であってほしいと願います。

 

今後の研修の方向性とは(まとめ)

これまでの内容をまとめます。

  • 自律社会は「自分らしさの発揮と他者との協調が両立する社会」。
  • Z世代の価値観は「今やりたいことを大切に」する。
  • 「承認の欲求」が、職場のモチベーションの源泉であった。
  • テレワーク、リモートワークで黙々と仕事をする環境において、「承認の欲求」が妨害されることは、劣等感、弱さ、無力感などの感情を引き起こし、これらの感情は、根底的失望か、さもなければ、神経症的傾向を引き起こす要因になりうる。

このような状況を整理できると、今、コロナ禍において、どのような研修に取り組むことが、社員の「やる気」を上げる研修、「モチベーション」を上げる研修になるかヒントになります。

研修が「場当たり的な問題解決型」の企画なのか、人的資本を高めるための研修企画なのか、人事手腕が問われる時代です。

 

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