【コラム】SDGsと人事・人材育成(パナソニック編 )-人的資本を軸にした資本の好循環サイクル
SDGs and HR/Human Resource Development panasonic version
-virtuous cycle of capital based on human capital
家電メーカーとしておなじみのパナソニックは、この春に大規模な組織替えを行いました。持ち株会社であるパナソニックホールディングスを筆頭とする事業会社制に移行したのです。
人事・人材育成の面で特徴的なのは、DEI (Diversity, equity and inclusion) と呼ばれるものです。
多様性と公平性、包括性を意味する言葉ですが、パナソニックでは以下のように定義しています。
私たちが目指す「DEI(Diversity, Equity & Inclusion)」とは?
挑戦する一人ひとりが ――
Diversity:互いの個性を受け入れ、尊重し、個性に価値を見つけること
Equity:機会の提供の公平性を追求すること
Inclusion:個性を発揮し、組織として活かしあうこと
(Diversity, Equity & Inclusion - サステナビリティ - パナソニック ホールディングス https://holdings.panasonic/jp/corporate/sustainability/diversity-equity-inclusion.html
より引用)
創業者・松下幸之助の言葉を引用し、すべての人に天分が与えられ、その天分を生かすことに人間の幸せがあるのだという考えを紹介しています。そのうえで、「挑戦する人と組織の成功」という目的のため、DEIを推進し「多様な人材がそれぞれの力を最大限発揮できる最も働きがいのある会社」を目指すというのがパナソニックの考え方です。
とはいえ、創業から105年の歴史を誇り、日本を代表する大手電器メーカーというと、旧態依然としていそうな先入観があります。男性社員比率は85パーセントを占めているのが現状です。多様な働き方とワーク・ライフバランスを実現する、障碍者や高齢者やLGBTQが活躍し、ジェンダーギャップを無くす…そんなスローガンにどれほどの現実性があるのか、未知数にも見えます。
その突破口になるかもしれない情報がありました。パナソニックの採用ページには、いろいろな障碍を持ちながら働く先輩社員の声が掲載されています。目を引くのは、このような特集記事です。
障がい者手帳を持っている場合の就職活動ってどうなっているんだろう。
|パナソニックグループ 採用情報 https://recruit.jpn.panasonic.com/feed/shogai_saiyo.html
この記事は、障碍者手帳を持っている状態での就職活動を経て、パナソニックに入社した先輩社員の座談会です。おひとりの方を除いて、顔と名前が伏せられています。以下のような注意書きがありました。
*パナソニックグループには、入社後本人の希望により、障がい者手帳を持っていることを必要最小限の人のみに伝えて、働いている人もいます。そのため、今回話を聞いた2人の写真と名前を伏せさせていただきました。
これだけでも、柔軟な対応がなされていることがわかります。座談会メンバーの中には、まだまだ偏見の多い精神障碍者手帳3級をお持ちの方もいました。お話の内容を読む限りでは障碍を全く感じさせず、一人の働く人として配慮を受けているという印象です。
出典:Who We Are - パナソニック コネクト (panasonic.com)
前述したように、今年4月にパナソニックは事業会社制に移行しました。部署や社内カンパニーが傘下の会社となり、それぞれの事業会社の取り組みがグループ内で迅速に共有できる仕組みになるといいます。パナソニック コネクト株式会社はそんなグループ会社の一つです。企業向けのサービスを扱う会社なので、個人の消費者にはなじみが薄い存在かもしれません。しかし、この会社こそがパナソニックグループのDEI推進の要なのです。
パナソニック コネクトでは、ソフトウェアやサービスを組み合わせて顧客の問題解決を図るソリューションが事業の核となっています。電器メーカーであるパナソニックグループの中では異色です。だからこそ、DEIへの取り組みが必要だといいます。同社の西川岳志氏は、このように述べています。
「松下電器時代から製造業として成長してきたパナソニックだが、CNS社は、単なる製造業ではなく、ソフトウェアやサービスを組み合わせて、社会に貢献していくのが事業の特徴である。製造業で培ってきたカルチャーだけでは、自らを変えていくことができない。自ら考え、自ら行動し、お客様とのコラボレーションを行うことが大切になる。その取り組みの原点にDEI活動があった」
(パナソニックが「変革の柱」として取り組むDEIとは--ジェンダーギャップ、LGBTQと向き合う - CNET Japan https://japan.cnet.com/article/35185369/ より引用 )
時代の流れの中で問題解決を求める顧客に対して、ソリューションを提供する側が旧態依然としていては事業を進めるアイディアも生まれないでしょう。顧客の動きと連動するように、自らも変化するエンジンとして、DEI活動が位置付けられていることが読み取れます。
同社のDEI担当役員・山口有希子氏は、入社希望者へのメッセージとして以下のように述べました。
「カルチャーをつくるって、結構簡単なようで全然簡単じゃないんですよね。ひとりひとりが本当に努力をしていかなきゃいけない。意識していかなきゃいけない。学んでいかなきゃいけない。(中略)そのための努力をしているっていうのが、コネクトの強みじゃないかなと思っています。ただこれがゴールではなくて、まだまだ変えなきゃいけないカルチャーっていうのもいろんなところに残っている。それに対して、あくなき努力をしていくっていうことがすごく重要だと思います。(中略)正直、まだこんなカルチャーなのかとか、憤ったり悲しんだりすることも多々あるんですけども、でもそういう声を投げかけてくれることによって、そのことがやっぱり変革をするパワーになるんですよね」
(DEI担当役員からのメッセージ|採用|パナソニック コネクト株式会社 - YouTube https://www.youtube.com/watch?v=L64f3pzyUOI&t=151s より引用 )
厳しい時代を生き延びてきたパナソニックが、さらなる未来を見据えて動き始めています。