【コラム】SDGsと人事・人材育成(シャボン玉石けん株式会社編 )-人的資本を軸にした資本の好循環サイクル

 

SDGs and HR/Human Resource Development shabon version
-virtuous cycle of capital based on human capital

 

SDGsの取り組みには、企業によって違いや差があります。もともと企業活動にサスティナビリティが組み込まれていた場合、そこからどのように取り組み、内外にアピールしていけばいいのでしょうか。シャボン玉石けん株式会社は、北九州市に本社を置く会社です。

出典 https://www.shabon.com/approach/index.html

 

 

無添加の製品にこだわり、全国的なブランディングに成功しています。公共の施設や交通機関のハンドソープや洗剤などに採用されることが多く、ロゴやキャラクターに見覚えがある人も多いかもしれません。

 

 

創業からしばらくは合成洗剤メーカーとして利益を出し、好調を保ちました。しかし、国鉄からの依頼で無添加の洗剤を製造したことが転機になります。社長が試しに使ってみたところ、長年悩まされてきた原因不明の湿疹が消えたそうです。そこで無添加石けんの製造に切り替え、環境にも人にも優しい製品づくりを進めてきました。

シャボン玉石けんは、2019年にSDGsへの継続的な取り組みを行う15の指標を発表しました。そこには、環境問題への取り組みはもちろん、人事・人材育成の取り組みも多くあります。実際の数値目標を見てみると、明確ではあるものの達成可能性が不透明です。なぜ、このような設定にしたのでしょうか。

 

 

ひとつには、思い切った改革を可能にする企業風土が生きていることが考えられます。過去に合成洗剤から無添加に切り替えたときも、売り上げは落ち込み、たくさんの従業員が去っていきました。そこから復活したことを自社のストーリーとしてPRしており、ブランディングに大きく影響しています。また、そのような会社の歴史は社員の中にも深く浸透していると思われます。各部署に高い独立性を持たせた組織の在り方を生かして、大胆で効果的な手法を取れる可能性は大です。

 

また、シャボン玉石けんの採用方針も大きく影響するでしょう。採用情報のページ(https://www.shabon.com/recruit/index.html )を見てみると、以下のような条件が明記されています。入社後は自社商品の使用を前提とします。シャボン玉石けんでは、広報活動の一環として化学物質過敏症の周知や予防を呼び掛けています。柔軟剤や芳香剤の匂いだけでも原因となるため、無添加を徹底している自社製品であれば社内で発生することはないでしょう。深刻な症状に悩んでいる人にとっては、良い職場環境です。しかし、たくさんの商品に囲まれた現代社会にあって、この条件をクリアして入社しようという人はおのずと限られます。数が多くはない人材を採用の段階で見分けるという方向が読み取れます。

同じく採用ホームページにある先輩社員の声は、社内の人間関係を伺わせる内容です。社員どうしの交流イベントが充実しており、「社会に出てから友人を作れるなんて思わなかった」というコメントもあります。適正な人材をしっかりと確保し、大事にする制度運用が機能している印象です。

 

近年、新しい考え方も台頭してきました。それが「従業員エンゲージメント」です。企業と個人の間に強固な信頼関係を作り相互の成長を促すことで、生産性の向上や離職率の低下を図るものです。5段階または10段階評価で「そう思うか/思わないか」を答える、従業員へのアンケート調査を行って現状を把握します。

設問は以下のようなものです。

12の設問

Q1:職場において、自分に何が期待されているのかを知っていますか?

Q2:うまく仕事を行うために必要な材料(materials)や道具(equipment)を持っていますか?

Q3:職場において、日々ベストを尽くすための機会を持っていますか?

Q4:過去七日間で、良い仕事をしたこと対して認められたり、称えられたりしましたか?

Q5:上司あるいは職場の誰かが、自分を一人の人間として気にかけてくれているようですか?

Q6:職場において、自分の成長(development)を促してくれる人物は誰かいますか?

Q7:職場において、自分の意見は尊重されているようですか。

Q8:会社の指名(mission)や目的(purpose)、自分の仕事(job)を重要だと感じさせますか?

Q9:同僚たちは質の高い仕事をすることに専念していますか?

Q10:職場に親友はいますか?

Q11:過去6か月の間に、職場で誰かが私の進歩(progress)について話しましたか?

Q12:過去1年の間に、仕事について学び、成長(grow)する機会がありましたか?

(従業員エンゲージメントとは。論文に見る向上させる方法のヒントと企業の施策事例│コラム│C・Dラボ│キャリア開発・キャリア研修のライフワークス https://www.lifeworks.co.jp/cdlabo/column/entry001842.html より引用)

いかがでしょうか。効率よく仕事を進めることはもちろん、仕事を通した人間同士のつながりが重要視されていることがわかります。同じ質問を使った国際的なエンゲージメント調査では、日本のスコアは139国中132位でした。

経済産業省の調査でも、エンゲージメントスコアの高い企業は離職率や品質上の欠陥が少ないという結果が出ています。少子高齢化が進み、少ない労働人口で企業が生き残るためには重要な指標です。

そのような視点からシャボン玉石けんの取り組みを見ると、従来以上の価値を生み出す可能性が存在します。自社の製品に誇りを持てる・組織に信頼が置けるということは、人事・人材育成の軸となりSDGsという新しい文脈で評価されるのです。さらなる進展を期待し、続報を待ちたいと思います。